芒種〜雨と淡い恋心のシナジー
6月6日ごろから夏至まで

芒(のぎ)とは、稲でいう籾殻にあるトゲのような突起(穎:えい)を持つ植物のことを言います。
この時期はもともとそんなイネ科の植物の種まきの時期。
そう。田植えの時期です。
今ではもう少し早く種まきを終えるそうですが、古くは田の神様に豊作を祈り、花笠姿の早乙女が田植えをする風景が見られました。

香取神宮御田植祭
七十二候
初候 蟷螂生(とうろう しょうず)
次候 腐草為蛍(ふそう ほたると なる)
末候 梅子黄(うめのみ き なり)

蟷螂とは、カマキリのことです。
稲は傷つけないのに害虫を食べてくれることから、七十二候にも取り入れられています。
『暦の上では夏ですが…』と聞くと、実生活とのギャップを感じたりしがちですが、今年は違いましたねー。
5月末は30度を超える日も多く、『わかってる!夏だよね!!』なんて気分になりました。
さてさてそんな五月晴れの頃も終わり、梅雨へとまっしぐら。
すでに沖縄・奄美・九州南部は梅雨入りしたそうですね。

私は幼少期、鹿児島県の屋久島に住んでいました。
『月に35日雨が降る』なんて言われる島ですが、この季節の雨は特別でした。
雨をぐんぐん吸い取った山は潤いを増し、まるで生き物のように生き生きとしてきます。
なんだか山が喜んでいるようで、自分までわくわくしました。
台風はそれはもう恐ろしいけれど、台風一過の青空は、もう格別。
夕立は、潔く清々しく叩きつけ、火照った島を冷ましてくれます。
九州最高峰の宮之浦岳に降った雨は、照葉樹の森に苔をむし、木々を育みます。
宮崎駿監督の『もののけ姫』の舞台だとも言われている森に降る雨は、美しいの言葉につきます。

山の雨、街の雨、海の雨。
皆さんの中には、どんな『雨』の原風景がありますか??
雨の歌
雨を題材にした映画はたくさんありますが、私は『言の葉の庭』が好きです。
『君の名は』の、新海誠監督の作品。
映画の中でこんな歌が出てきます。
鳴る神の 少し響(とよ)みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ
雷が少し鳴って、曇ってきて、雨でも降らないかしら。あなたを引き止めたいの。
(返歌)
鳴る神の 少し響(とよ)みて 降らずとも 我(わ)は留まらむ 妹(いも)し留めば
雷が少し鳴って、雨が降るようなことがなくても
私は留まるよ、君がいて欲しいというのなら
実はこれ、万葉集にある、柿本人麻呂の歌。
1300年も前に読まれた歌に垣間見える、瑞々しい恋心。
雨と淡い恋心の、美しさを増幅させあう相乗効果。
万葉の頃から、デジタルアニメーションの今まで、ずっと変わらずある心の機微。
『鳴る神』=『雷』も、日本人らしい、美しい言葉です。
美しい日本語、新海監督の描く美しい景色、そこから生まれるまた新たな美しさ。
映画自体も淡い恋の話ですが、日本人で良かったと思える景色がたくさん詰め込まれています。
https://www.kotonohanoniwa.jp/
新海監督の新作は、『天気の子』
また美しい空が観れそうで、楽しみです。
梅雨にまつわる言葉
暦の上での梅雨入りは(入梅)は、太陽の黄経が80度に達する日とされていて、6月11日前後です。
気象庁が発表する「梅雨入り」とはちょっとだけ、ずれます。
暦の上の「入梅」は『雑節』の一つです。
今のように詳細な気象情報が手に入らない時代には、この『入梅』が田植えの日を決める目安だっため、実はとても重要な暦日だったんです。

そもそも『梅雨』はなんで『つゆ』『ばいう』と読むのでしょうか?
諸説ありますが、いくつかご紹介します。
ばいう
*梅の実が熟す時期に降る雨なので、『梅雨』。
*この時期は黴(カビ)が生えやすいことから『黴雨』と言ったが、語感が良くないので、同じ読みで意味もしっくりくる『梅』を使うようになった。
つゆ
*木の葉などに降る『露』に由来
*色々なものがカビたり腐ったりダメになりやすい時期だから、物が潰える(ついえる)。
その、潰ゆ(ついゆ)が変化。
梅に含まれるクエン酸の疲労回復効果や殺菌作用は、昔からこの時期に最適な自然からのプレゼント。
梅仕事に忙しい皆さん、美味しい梅酒に梅ジュースに梅干しに…
美味しくできますように。

6月の雨は花になる
芍薬を使った化粧品のキャッチコピーだったこの言葉。
この時期に咲く花は、春に比べると少し穏やかな色合いのものが多くて、雨によく映えます。
梅雨時期に咲く花
芍薬

紫陽花

ムクゲ

花しょうぶ

クチナシ

クレマチス

睡蓮

バラ

ブルーベリー

ラベンダー

ハイビスカス

プルメリア

ほーたるこい
七十二候にあるように、そろそろ蛍も姿を現し始めます。

蛍は、世界に二千種類、日本には四十種類もいるそうです。
代表的なのはゲンジボタルとヘイケボタル。
ゲンジの方が大きく、点滅もゆっくり。
ふわふわ曲線的に飛びます。
緩やかに流れる川で観られます。
ヘイケの方が時期的には遅く、チカチカ早く点滅しながら真っ直ぐ飛びます。
水田などの流れていない水があるところで見られます。
曇っていて風がなく、少し蒸し暑い日。
月が出ていない夜が、観察しやすいです。

体調に気をつけて、楽しい梅雨をお過ごしくださいね。
次回は夏本番、夏至にてお会いしましょう。